洋画で軍人の葬式に流れる曲◆『Amazing Grace(アメイジング・グレイス)』
はじめに
葬式といえば、我が日本は一応は仏教国なので、住職が読経している光景が浮かびます。ですが海の向こうの多くの国はキリスト教圏であるため、当然ながら住職も読経も一般的ではありません。スキンヘッドは日本より多い気がします。
あちらの葬式は、こちらで言う結婚式と似たようなイメージで、牧師さんがいて、聖歌隊が讃美歌を歌うか、もしくはバグパイプで追悼の音楽を演奏します。
今回は、讃美歌としてもバグパイプで演奏される曲としても非常に有名な曲をご紹介します。
(John Newton)『Amazing Grace』
バグパイプと歌声を両方楽しめるケルティック・ウーマン版『Amazing Grace』
讃美歌なので、もうホントに世界中でいろんな方が歌っています。バグパイプでも演奏されています。唐沢寿明版『白い巨塔』のエンディングテーマにも、ヘンリー・ウェステンラさんが歌う『Amazing Grace』が使用されていましたね。あのドラマは良かった。君の指図は受けんよ里見。
『Amazing Grace』の作詞は1772年。もはや懐かしの洋楽とかのレベルではありません。イギリスの牧師ジョン・ニュートンが作詞し、作曲者は不明です。ジョンは『Amazing Grace』を書き上げるに至るまで、人生で大きな転換を経験しています。
ジョンの母は幼いジョンに聖書を読み聞かせる敬虔なクリスチャンでしたが、ジョンが7歳の時に他界。その後ジョンは船乗りの父に付いて海運を学び、アフリカ大陸から黒人を拉致して欧州で売りさばく奴隷商で財を成していました。
奴隷たちの扱いは家畜以下であり、狭い船内にすし詰めにされ、ロクに食料も与えられなかった奴隷たちは、道中の船内で脱水症や栄養失調、また感染症でその多くが命を落としていきました。ジョンもまた当然のように奴隷に対して酷い仕打ちを行っていましたが、あるときジョンが乗った船を嵐が襲います。
船は波に揉まれ、船倉には穴が開き、転覆寸前。敬虔なクリスチャンを母に持つジョンは、このとき人生で初めて、神に祈りを捧げ、真摯に命乞いをしました。
すると流出していた貨物が船倉の穴を塞ぎ、船は転覆を免れ、ジョンは一命をとりとめました。ここから彼は熱心に聖書や宗教書を読み漁ります。が、依然としてその後6年ほど奴隷商に従事します。バチ当たるで。しかしキリストは赦しの神、その後はジョンに大きな厄災が降りかかることは無かったそうです。1755年にジョンは牧師となり、1772年に『Amazing Grace(すばらしき恩寵)』を作詞します。
詩中でジョンは、黒人奴隷貿易に関わったことに対する悔恨と、それにも関わらず赦しを与えた神の愛に対する感謝を綴っています。このような背景から、「すべてキリストが赦し、天国へ導かれる」曲として、キリスト教圏では葬式の定番曲として、現在も連綿と歌われ続ける讃美歌となっています。
ちなみに牧師は職種名、神父は先生的なニュアンスの尊称です。